大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和36年(オ)379号 判決

主文

原判決を破棄し、本件を札幌高等裁判所に差戻す。

理由

上告代理人折居辰治郎、同斉藤敏之の上告理由第一点について。

原審が証拠上適法に確定した事実によれば、上告人と被上告人との間で昭和二九年八月二一日原判示山林九筆につき代金を二三〇万円としその他判示約定の売買契約がなされたこと、右売買は被上告人において売買の目的物たる山林を造材事業に供するために締結したものであること、右契約締結に際して、上告人は被上告人に対し、本件山林はもと南側に道路があつたのにすぎないから造材の搬出は峠を越えその南側の道路に出る外なく多大の経費を要するものであつたが、現在では本件山林の北側山麓に開鑿道路が開通したので造林事業の経営上極めて有利であるとの説明をしたので、被上告人はこれを真実であると信じ当初の買受希望価額を大巾に上回る代金で買受ける契約をしたこと、それにも拘わらず本件山林の北側山麓には何らの道路がなく、北方の他人所有隣地約一里半を距てた箇所に始めて開鑿道路が存在するにすぎず、本件山林の造材搬出事業については殆ど利用価値のないこと、被上告人は右北側山麓道路が存在しないことを知つていたならば本件売買契約をなす意思はなかつたものと認められるというのである。そして右事実関係のもとにおいて、上告人が存在しない右北側道路に言及したことは不自然であり、被上告人は右北側道路が存在しないことを知つていたならば、本件売買をする意思がなかつたということは取引上至当であり、右北側山麓道路が存在することは本件売買契約の要素をなすものであつて、右契約締結に際し北側道路の存在するものと誤信した被上告人に錯誤があるとの原審の判断は相当であるといわねばならない。原判決に所論の違法はなく、引用の判例は事案を異にし本件に適切でない。

同第二点について。

記録を調べてみると上告人は昭和三四年九月三〇日の原審口頭弁論において同日付準備書面(記録三四六丁)により、本件北側開鑿道路の存否について調査しなかつた被上告人には重大な過失があるとの主張をしているにも拘わらず、原判決はこの事実を摘示せずまたこれに対して判断が与えられた形跡が窺えない。してみると原判決にはこの点につき判断を遺脱し、理由不備があるものであつて、原判決は破棄を免れない。

よつて、民訴四〇七条第一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例